なんでもない日常の風景が今はとても新鮮です。

今日は朝から天気が良かった。

正午近くに夫から電話があり、同僚を空港に送っていくついでに家に帰って一緒に昼食をとるというので、夫が帰ってくるまでの時間を雑誌を見たり、友達とMSNでおしゃべりしたりして過ごした。1時ごろになって、彼が帰ってきたので残り物を暖めて一緒に食べてから、二人でちょっとトイレットペーパーやシャンプー、シャワージェルなどといった歩いてもって帰るにはちょっと不便なものを一緒に買いにいこうと2時近く出かけていった。買い物を終えた後、彼は会社に戻っていき、私はブラブラとMallの広場にずらり並ぶOutdoor marketを面白半分に見に行ってみた。

アクセサリー、手作りカード、裁縫材料、ナッツとドライフルーツ、スパイス、魚、肉、ベーカリー、花屋、本屋、雑貨屋などなど色々なOutdoor Marketのお店がひしめき合う。平常時の為かそんなに人は多くないし、少し太陽は出ているものの、強く冷たい風がテント下に並んでいる洋服を容赦なく吹き荒らし、寒そうにセーターが風に吹かれてはためいている。おいしそうな揚げ物の匂い、香ばしいクッキーの匂い、花々の放つFloralの香り、色んな匂いが風に乗って競って私の嗅覚を捕らえる。あちこちから店先を歩いていく客にオランダで声をかけているのをBacksoundに聞き、見慣れないオランダ語の値札を見ながら、オランダ語をわかる様になりたいと思った。英語でも通じるだろうが、ここの国の言葉はオランダ語なんだ。オランダ語を理解してこそ、ここでの自分らしい生活を築くことができるのではないだろうか、そう思った。色々なお店を見ながら、思わず微笑んでしまう。楽しい。色々買いたいものはあったが、寒くて手を出したくなかったのと、植木鉢に入った水仙やチューリップの球根など買ったらもって帰るのは大変だろうと思い、どうせ明日土曜日で彼が休みになるから一緒にきたら買おう、などと考えなら一つ一つのお店を見ながら回った。結局買ったのは小さな藤の花束、5束で4Euro,1束1Euroというのであった。

風は冷たく強かったが、体は寒くはなかったのでちょっと遠回りして散歩してから帰ろうと、Mallの広場を出て、道を右に曲がって街の繁華街付近の噴水に向かって歩いた。そこで左に曲がると、ずらーっと続く住宅地がある。どの家も構造は似たり寄ったりだが、家の前にある四角く区切った小さな庭に各家の個性が見える。ある家はたくさんの花をうえ、ある家は枯れ木しかない。ちょっと歩いていくと、ふと私の目を捉えたものがあった。桜が咲いているではないか。ちょっと日本を思わせるピンクと白の入り混じった小さくて可愛らしい花をつけた細枝の桜の木が元気に立っていた。この小さな発見に私は気分が良くなって足取りが軽くなった。と、今度はオレンジと茶色の斑点が入り混じったでぶっちょの猫が右手の運河脇の木のあたりからひょんと出てきて道を横切っていく。私に気づくと、猫は歩いていた姿勢のまま立ち止まってこちらを振り返ってじっと私をみると、また何事も無かったかのように左手の家の庭にそっと入っていった。

ずっと歩いていくと道は左にカーブしていく。このカーブに差し掛かった所の家はかなりの裕福な家なのか、庭の周りを高いBushで綺麗に隙間なく囲っていて、中が見えにくい。と、カーブを曲がりきったあたりで、そのBushにちょっと隙間がでてきたので、興味半分に中をのぞいてみると、家自体はそんなに大きいとは思えなかったが、庭が家の周りをぐるりと囲っているようで、家の後ろの庭にはちょっとくつろげるTableやBenchなどもおいてあった。“ん、あれ?”と思ったのはこの家の屋根である。ちょっと青色が買った瓦屋根に白い壁のこの建物はどこか江戸時代の建物を思わせるものがあった。道に沿って左手には長く運河が伸びている。その両側を背の高く幹が太いブナの木らしい木が聳え立っている。(残念ながら私は木に関する知識をまったく持ち合わせていないので、ブナらしいと思っただけで、けしてブナではないのかもしれない…。)



その道に沿って歩いていくと、運河を横切る小さな白く朽ちた橋が現れたので、右に進路を変えて歩いていく。すこし上りのある橋を渡ると下りになって、にょろりと曲がった小道を歩いていくと、左手に先ほどと同じような大木のずらりと並ぶ土手が現れる。そこに入っていくと、右手に運河、左手に大木の並ぶ土手、目の前には壮大に広がる草原が開けた。人気の少ないその草原に向かった歩いていくと、車の音はまったく聞こえず、ただザーッ、ザーッと風が木々を揺らす音に加え、何の音かははっきりしないが、ゴーっ、ゴーっと大きな轟音がはるか頭の上でしている。その散歩道を風を押しながら歩いていくと、草原に出た。左手に巨大な風車が力強く回っている。その風車の遥か向こうの空の離陸したばかりの飛行機が上に傾いて飛んでいき、しばらくしてターンをして方向転換した。どこに飛んでいく飛行機だろうか?右手の草原にはアヒルがヨチヨチ、首を伸ばしながら済ました顔で上品に歩いている。草原に出た所でなんとなく私を押してくる風が重くなった。右に左にカーブを描きながら、道にそって歩いていくと、左手に小さな池が現れる。またもやアヒルの仲良しグループに出会った。風車を眺めながら歩いていくと、二匹のアヒルが近寄ってくるではないか。あれっ?と思いながら歩いていくと、私の足元まできた1匹のアヒルは、くいっと首をのばし、こちらを愛想良く見て、おどけたようなすましたような顔で、黄色いくちばしを開けたかと思うと、私の目を見ながら“グヮッ”と一言、枯れた声であいさつした。言ったあとも返事を待つかのように私を見ている。そのおどけた可愛さに思わず、“ぷっ”噴出してしまいながら、思わず“はい、こんにちは”と挨拶し返したくなった。すればよかったのかもしれない。もしかしたらあのアヒルはそれを待っていたのかもしれない、そんな幻想さえ沸いてくるような表情だった。



アヒルに挨拶を頂いてからすぐに右に曲がって家まで続く真っ直ぐな道を歩いた。その道を歩きながら私は考えていた。ヨーロッパでの生活は、今まで私が知っている世界をまったく0にしてしまった。私の常識、知っていることが知らないことより多い慣れた国での生活とはまったく違う何かが始まっているように思えた。これから私は何を経験していくのだろう?どこから始めればいいだろうか?私達の生活、私自身の生活、全てにおいて、私は知らない事だらけだ、と改めて思った。本当に人生のまったく新しいChapterに入ったんだなぁ、と痛感せずにはいられない。ここで何を見て、何を聞いて、何を思うのだろうか。そしてそれらが私達の、私自身の将来にどうつながるのだろうか、未知に満ち溢れたこの新しいChapterをどう生きていこうか、どう築いていこうか、そんなことを思いながら、期待にわくわくと胸を膨らませて風をぐいっ、ぐいっ押しのけながら、心休まる我が家へ向かう家路を足取りで歩いていった。
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